2024.10.24
安全・安心

リチウムイオン電池の異常を早期検知!ガスセンサで安全対策

目次

リチウムイオン電池は従来の電池より小型で耐久性が高く、長寿命、急速充電が可能、大容量の電力を蓄えられるなどの多くのメリットがあります。

軽量化やコンパクト化が進む電気製品・電子製品のニーズに合うことから、スマホバッテリーや電気自動車、家庭用蓄電池などさまざまな用途に使用されていますが、用途の拡大にともないリチウムイオン電池の発火事故が急増しています。

このため近年では、その危険性を認識し、事故防止のための安全対策が求められています。

リチウムイオン電池の重要性と市場規模

2050年 カーボンニュートラル実現の鍵

カーボンニュートラル・・・CO2やメタン、一酸化二窒素、フロンガスといった温室効果ガスについて、それらの排出量から「吸収量と除去量」を差し引いた合計をゼロにすること。

現在、日本を含む120ヵ国以上の国・地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標とすることを表明しています。

火力発電に使用される石油や石炭などの化石燃料は地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出することから、環境への悪影響が懸念されています。それらに代わるものとして、CO2を排出しない太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」の導入量が拡大していますが、発電設備の設置場所が限定されていることや発電コストの高さ、天候などに影響されて発電量が大きく変動し、大量のエネルギーを安定的に供給することができないという問題点があります。

そこで近年注目されているのが、再生可能エネルギー設備で発電した余剰電力を蓄えておくことができる「リチウムイオン電池(二次電池)」です。その中でも、住宅や工場・病院などのビルに設置する「定置用蓄電池」と、電気自動車に設置する「車載用蓄電池」が、電力の安定供給のカギを握っています。

蓄電池の世界市場の推移

経済産業省."参考資料(蓄電池)"
(出所)IRENA、企業ヒアリング等を元に、経済規模は、車載用パック(グローバル)の単価を、2019年2万円/kWh→2030年1万円/kWh→2050年0.7万円/kWhとして試算。定置用は車載用の2倍の単価として試算。

蓄電池の世界市場の推移を見ると、車載用、定置用ともにこれから急拡大する見通しで、とくに電気自動車市場の拡大を受けて「車載用蓄電池」の需要が大きく増加すると予想されています。
また、家庭での太陽光発電システムによる発電が急速に増加していることや、産業用・商業用施設における電気代削減やレジリエンスの観点からのBCP対策が促進されていることから、住宅や工場、病院などのビルに設置する「定置用蓄電池」の需要も増加すると考えられます。

ESS・定置用蓄電システム向け二次電池の世界市場

富士経済「エネルギー・大型二次電池・材料の将来展望 2024 ESS・定置用蓄電池分野編」を元に作成
  2024年見込 2023年比 2040年予測 2023年比
住宅分野 6,351億円 1.2倍 1兆2,733億円 2.4倍
業務/産業分野 1,267億円 1.2倍 5,713億円 5.4倍
系統・再エネ併設分野 2兆2,966億円 1.2倍 8兆6,009億円 4.4倍
UPS /基地局分野 8,060億円 1.1倍 1兆363億円 1.4倍

富士経済レポート第24078号「ESS・定置用蓄電システム向け二次電池の世界市場を調査 2040年世界市場予測(2023年比)」より

日本や米国の一部の州では、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー発電設備の設置を義務付ける条例(日本の場合、2023年4月より延床面積2000㎡以上の建築物を新築・リフォームする場合に設置の義務化)が導入されました。その影響もあり、さまざまな分野で蓄電池の市場規模はさらに高まる見込みです。

リチウムイオン電池の危険性

リチウムイオン電池の危険性イメージ

リチウムイオン電池の需要が拡大する一方で、過充電や過放電、使用方法を間違えると発熱や破裂、発火、火災を引き起こすなどの事故も増加しています。

爆発・火災事故の原因

リチウムイオン電池の使⽤中や保管・輸送中に外部からの負荷(過充電や短絡、振動、衝撃、⾼温・低温など)が加わると、以下のような現象が発⽣する可能性があります。

  • 内圧上昇による内部ガス漏れ
  • 電解液の漏れ
  • 電解液の熱分解反応
  • 熱暴走

特に注意が必要なのが「熱暴走」です。リチウムイオン電池の内部にある電解質は気温上昇や過充電等によって⾼温になりやすく、圧⼒がかかると急激に発熱し大量の可燃性ガスが放出する恐れがあります。

最悪の場合には発⽕や爆発といった事故を引き起こすだけでなく、熱が近くの他のバッテリーの熱暴走を引き起こし連鎖的に発火が始まる危険性もあります。

国内・世界の事故発生状況

LIB熱暴走に起因する事故発生状況(国内)

発火/発火懸念事故の発生件数推移
LIB搭載製品の発火懸念事故件数の推移(2013~2022年度)
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)2022年度 事故情報解析報告書 を元に作成

こちらは日本国内の過去10年間に発生したリチウムイオン電池搭載製品の発火懸念事故について、発生年度別に纏められたグラフです。
(発火懸念事故とは、リチウムイオン電池が発火せずに発熱、膨張、発煙にとどまった事故を含む)

事故件数は増加傾向にあり、電動工具や充電式掃除機の非純正バッテリーが流通した2019年度に上昇してからは緩やかな減少傾向にありましたが、2022年度には再び増加しています。
リチウムイオン電池搭載製品の種類の多様化、コロナ禍以降の外出規制の緩和に伴うポータブル電源・モバイルバッテリーの需要の増加などが事故件数の増加に影響していると考えられます。

LIB熱暴走に起因する事故発生状況(世界)

LIB熱暴走に起因する事故発生状況(世界)
蓄電池産業の現状と課題について(2021年11月18日 経済産業省)を元に作成

リチウムイオン電池を搭載した製品による火災は世界中で発生しています。ニューヨークタイムズによると、リチウムイオン電池はニューヨーク市における火災による死因の第1位となっており、2022年度に市内で電動自転車や電動スクーターに搭載されたリチウムイオン電池が原因で起きた火災は220回で、前年より116回も増加したといいます。

出火要因をみると、使用者の明らかな誤使用(分解、衝撃、充電方法誤り等)により出火する火災の他に、製品の欠陥により製品から突然出火する火災も発生しています。

リチウムイオン電池の発火に対する安全対策

リチウムイオン電池内部の温度変化

リチウムイオン電池はどのように発熱・発火するのでしょうか。

通常は、リチウムイオン電池のプラス極とマイナス極がセパレータという材料で仕切られていますが、過充電などによる電池の劣化が進行することで(電解質が酸化され)多量のガスが発生したり、外部から強い力が加わったりすると、セパレータが破損して極材同士が反応し、外部から強い力が加わったりするとセパレータが損傷して極材同士が反応し、大量に流れる電流によって局所的な発熱が生じることがあります。

正常動作温度である約25℃〜60℃を超えるとマイナス極と電解液との間で反応が起こり、さらに温度が上昇するにつれて電解液の熱分解が始まります。ここで収まる場合もありますが、発熱が約150℃付近まで達してしまうと、今度はプラス極材料である金属酸化物の結晶が崩壊して酸素が放出されます。

この酸素が燃料となって、さらなる熱発生のモードへと突入していく現象が、いわゆる「熱暴走」と呼ばれるものです。そして最悪の場合、発煙や発火、爆発といった事故に至ります。また、内部温度の上昇にともなって水素や有機ガスなどの可燃性ガスのほかに一酸化炭素(CO)や硫化水素(H2S)などの人体に有害なガスを放出することもあるため大変危険です。

ガスセンサによる早期検知がカギ

ガスセンサは、人による常時監視が困難な設置場所においても、リチウムイオン電池に異常が⽣じた場合に発⽣する各種のガスをいち早く検知することができます。

大型のリチウムイオン電池が多数使用されている設備や機器で事故が発生すると、甚大な被害が予想されます。重大な事故を未然に防⽌し、損害を低減するためには、異常状態を早期に検知できるガスセンサをリチウムイオンバッテリー応⽤機器の安全装置内に組み込む必要があるのです。

リチウムイオン電池の火災実験

ヒーターによって加温され続けたリチウムイオン電池が正常動作温度を超えた時に発生するガスに対する、ガスセンサの反応を確認する実験を行いました。

実験条件

リチウムイオン電池の火災実験に関する実験条件

NO. Seonsor Type 検知方式 備考
A H2(水素) MOS 拡散式
B HC(炭化水素) MOS
C VOC(Toluene基準) MOS
D CO(一酸化炭素) 電子化学式
E CO2(二酸化炭素) 光学式
F 火災報知器 光学式

リチウムイオン電池をヒーターの熱によって高温条件下に設定し、熱暴走が発生するまでの過程で発生する各種ガスを検知する6タイプのセンサ(A~F)を天井、上段、下段の3箇所に設置しました。

リチウムイオン電池の火災実験の結果

グラフの縦軸は温度、横軸は経過時間、水色の点線はリチウムイオンバッテリーの表面温度を表しています。

ヒーターの熱によってリチウムイオンバッテリーの表面温度が時間の経過とともに上昇していきますが、経過時間24分で約100℃を記録すると電解液が噴出します。表面温度は100℃から僅かに温度上昇を続け、38分を経過したあたりで煙の噴出が起きます。経過時間41分でリチウムイオンバッテリーの表面温度が200℃手前まで跳ね上がり、その瞬間に熱暴走が発生したことによる発火が起きました。

この実験からは、熱暴走が始まる前にVOCセンサやHC系ガスセンサ、水素(H2)センサを使用することで、リチウムイオン電池の異常を早期に検知できることが確認できました。

小型で長寿命、高感度で信頼性が高いFIGAROガスセンサ

FIGAROガスセンサ

リチウムイオン電池の安全対策に用いるガスセンサには、高度な耐久性と長寿命が要求されます。

フィガロ技研は世界にさきがけて半導体式ガスセンサの量産化に成功し、以来50年以上にわたって半導体式ガスセンサをはじめとした各種ガスセンサの研究開発や応用商品の開発・普及に努めてきました。

特に保安分野での実績が高く評価され、リチウムイオン電池分野でも多くのセンサが採用されています。

N社様の事例紹介(複合環境センサ MES-92/93)

複合環境センサ MES-92/93

発生ガス検出機能

  • 常時監視、長期間センサ交換不要
  • 独自アルゴリズム採用

外部通報機能(接点出力)

  • IEC62933-5-2、JIS C 4441 対応

コンパクトサイズ

  • 50(W) x 78(H) x 100(D) mm, 250g以下
  • DINレールに取付可能

リモート通信機能

  • 有線:RS-485/無線:920MHz帯Multi Hop 対応

各産業界に供給している数多くのガスセンサの中には、使用開始から20年以上実働し、高い耐久性と安全性が確認されている製品もあります。

お客様や社会のニーズに対応する技術革新を進め、ご要望に応えられる豊富な製品ラインナップと高い品質の製品をこれからも提供していきます。

小型で長寿命、高感度で信頼性が高いFIGAROガスセンサをお役立ていただき、人々の安全、安心、快適な生活の実現に貢献できることを目指していきます。 

World Leader in
Gas Sensing Innovation

フィガロ技研は世界トップレベルの生産販売量を誇るガスセンサメーカーです。
1969年の創業以来「独自のガスセンシング技術を通じて、世界の人々の安全・安心・快適な生活を実現する」を合言葉に、半導体式ガスセンサをはじめとした各種ガスセンサの研究開発、応用商品の開発・普及に取り組んでいます。