ガスセンサとは、目に見えないガスの存在を調べることができるセンシングデバイスです。家庭の都市ガス・プロパンガス警報器をはじめとして、エアコンや空気清浄機、自動車等に広く使われています。
その中で、当社が得意とする4つのガス検知の原理を解説いたします。

短絡電流式プロトン導電体COセンサの検知原理

図1  COのアノード酸化反応と酸素の
    カソード還元反応の模式的な分極曲線

Figaro TGS5xxx シリーズは、短絡電流をセンサ信号として利用する短絡電流式プロトン導電体一酸化炭素 (CO)センサです。ガス検知部の基本構成は、作用電極、対向電極、およびその間に挟まれたプロトン導電膜です。

作用電極と対向電極を外部配線で接続せずに、すなわち開回路の状態でセンサを清浄空気中に置くと、作用電極と対向電極においてそれぞれ電気化学反応(1)式が起こり、両電極での電位が平衡電位(E1)となります。

2H+ + 1/2O2 + 2e- ⇄ H2O ...(1)

開回路状態で、空気と混合されたCOが存在すると、作用電極上では COのアノード酸化反応(2)式と酸素のカソード還元反応(3)式が同じ速度で同時に進行し、局部電池を形成します。

CO + H2O → CO2 + 2H+ + 2e- ...(2)

2H+ + 1/2O2 + 2e- → H2O  ...(3)

その結果、作用電極の電位はE1から混成電位(EM)に変化し、定常状態ではアノード電流 i(2)とカソード電流 i(3)の絶対値が等しくなります(図1)。 作用電極に到達するCOの流入量は、拡散制御システム(例えばTGS5xxxシリーズセンサではガス拡散制御ステンレス板)により制限され、CO濃度に直線的に比例した拡散限界電流(図1)が得られます。対向電極上では(1)式の反応しか起こらないため、対向電極の電位はE1となります。従い、このような電位差式(混成電位式)センサの場合、検出信号はEM―E1となり、このような信号は空気中のCO濃度の対数に比例します。

空気中にCOが存在する雰囲気中で、作用電極と対向電極を外部配線により電気的に接続して短絡状態にすると、図1に示すように、両電極の電位はE1とEMの中間で同じ値(Esc)に変化します。
作用電極の電位は、(3)式の反応が減速する方向に変化するため、作用電極で消費されるプロトンが少なくなります。その結果、余剰なプロトンは作用電極からプロトン導電膜を介して対向電極に移動します。この余剰プロトンの数は、空気中のCO濃度に比例し、対向電極での(3)式の反応により消費されます。この過程では、等価電子が作用電極から外部配線を介して対向電極に短絡電流(センサ出力電流)として流れます。このセンサ出力電流もCO濃度に直線的に比例します(図2)。

図2 短絡電流式プロトン導電体COセンサの検知メカニズム

センサが清浄空気中に戻されると、作用電極では(1)式の反応のみが起こり、両電極間の電位差がなくなるため、外部配線には電流が流れなくなります。このように、このセンサはCOに対して可逆的なアンペロメトリック反応を示します。

この短絡電流式COセンサは、CO濃度とセンサ出力電流の関係が直線的であるため、空気中のCO濃度の対数に比例して応答する電位差式COセンサに比べ、より正確な濃度測定が可能になります。既知のCO濃度のガスでセンサ出力電流を校正することで、本センサをCO濃度の定量的な測定に使用することができます。

図3 CO濃度とセンサ出力電流の関係

短絡電流(センサ出力電流)とガス濃度は、(4)式で示されるような比例関係にあります。(図3)

I = F × (A/σ) × D × C × n ...(4)

ここで、
I: 短絡電流、F: ファラデー定数、
A: 拡散孔面積、σ: 拡散層長さ、
D: ガス拡散係数、C: ガス濃度、n: 反応電子数

特長

通常の乾電池のように、センサ内部の固体・液体の活物質や電極が消費されることはありません。そのため、本センサは長期安定性に優れ、長期間のメンテナンスフリーな使用が実現可能です。
また本センサは、ヒーターなしで動作し、出力電流を自己生成するため、電池駆動式のCO検知器に最適なセンサです。

参考文献

1) 三浦則雄、加藤寛、山添昇、清山哲郎
“プロトン導電体を用いた常温作動型ガスセンサー”、電気化学、50, No.10, 858-859(1982)

2) Norio Miura, Hiroshi Kato, Yoshihiro Ozawa, Noboru Yamazoe, Tetsuro Seiyama
Amperometric Gas Sensor Using Solid State Proton Conductor Sensitive to Hydrogen in Air at Room Temperature, Chem. Letters,1905-1908, (1984)

3) Norio Miura, Hiroshi Kato, Noboru Yamazoe, Tetsuro Seiyama
Amperometric Proton-Conductor Sensor for Detecting Hydrogen and Carbon Monoxide at Room Temperature, ACS Symposium Series 309, Fundamentals and Applications of Chemical Sensors, 12, 203-214 (1986)