ガスセンサとは、目に見えないガスの存在を調べることができるセンシングデバイスです。家庭の都市ガス・プロパンガス警報器をはじめとして、エアコンや空気清浄機、自動車等に広く使われています。
その中で、当社が得意とする4つのガス検知の原理を解説いたします。

半導体式ガスセンサの簡単なしくみ

STEP1

きれいな空気中では、表面の酸素原子(または酸素分子)が酸化スズ中の電子をとらえているために電気が流れにくい状態にあります。

STEP2

もれてきたガス(還元性ガス)中では、表面の酸素が還元ガスと反応して取り去られて、酸化スズ中の電子が自由になります。その影響で、電気が流れやすくなります。

センサの検知原理

数百度の温度で酸化スズ粒子を酸素に曝すと、酸素が粒子中の電子を捕捉し、粒子表面に吸着します。その結果酸化スズ粒子に空乏層が形成されます。ガスセンサに使用される酸化スズ粒子は、一般にとても小さいため、空気中では粒子全体が空乏層にのみこまれた状態になっています。この状態をvolume depletionと呼びます。一方、空乏層が粒子中心まで及んでいない状態をregional depletionと呼びます。
酸素分圧をゼロ(flat band)から小([O-](Ⅰ))→中([O-](Ⅱ))→大([O-](Ⅲ))と上昇させたときのエネルギーバンド構造と伝導電子分布の変化を下図に示します([O-]:吸着酸素濃度)。volume depletionでは空乏層の厚さ変化が終わりフェルミレベルのシフトpkTが発生します。空乏状態が進行するとpkTが大きくなり、後退するとpkTが小さくなります。

吸着酸素濃度の増加に伴う半導体粒子の空乏状態の進行

エネルギーバンド構造

x
半径方向距離
qV(x)
ポテンシャルエネルギー
a
粒子半径
[O-]
吸着酸素濃度
EC
伝導帯の下端
EF
フェルミレベル
pkT
フェルミレベルシフト

伝導電子分布

[e]
電子濃度
Nd
ドナー密度

volume depletionでは球状酸化スズ粒子の表面電子濃度[e]Sは、ドナー密度Nd、粒子半径aおよびデバイ長LDを用いて、式(1)で表されます。pが大きくなれば[e]Sが減少し、小さくなれば[e]Sが増大します。

[e]S=Nd exp{-(1/6)(a/LD)2-p} ... (1)

大きさ、ドナー密度が同じ球状酸化スズ粒子からなるセンサの抵抗値Rは、flat bandにおける抵抗値R0を用いて、式(2)で表すことができます。[e]Sが減少すればRが大きくなり、 [e]Sが増大すればRが小さくなります。

R/R0= Nd/[e]S ... (2)

このようにして酸化スズを用いた半導体式ガスセンサでは酸化スズ粒子表面の[O-]の変化がRの変化となって現れます。

数百度に加熱され空気中に置かれた酸化スズ粒子は、一酸化炭素のような還元性ガスに曝されると、その表面に吸着している酸素とガスの間で反応が起こり[O-]が減少します。その結果[e]Sが増大してRが小さくなります。還元性ガスを取り除くと、[O-]はガスに曝される前の濃度まで増大し、Rはガスに曝される前の大きさまで戻ります。酸化スズを用いた半導体式ガスセンサはこの機構を利用してガスの検知を行なっています。

参考文献: Noboru Yamazoe, Kengo Shimanoe, Basic approach to the transducer function of oxide
semiconductor gas sensors, Sensors and Actuators B 160 (2011) 1352-1362